アセチルコリン受容体は、神経伝達物質であるアセチルコリンによって活性化される受容体である。

アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合し、アセチルコリンによって作動されるため、「コリン作動性受容体」ともいう。

アセチルコリン受容体の種類

アセチルコリン受容体は、以下のように大きく二つに分けられる。

ムスカリン受容体、ニコチン受容体、ともにアセチルコリン受容体である。そのためアセチルコリンは、ムスカリン受容体とニコチン受容体のどちらにも作用する。

ムスカリン受容体はムスカリンが作動薬(アゴニスト)として作用し、
ニコチン受容体はニコチンが作動薬(アゴニスト)として作用するため、この名前が付けられた。

ムスカリン受容体

ムスカリン受容体は代謝調節型の受容体であり、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)である。

アセチルコリンやムスカリンがムスカリン受容体に作用する。

ムスカリン受容体と副交感神経

「ムスカリン受容体」と聞いて連想すべきは「副交感神経」である。

副交感神経の神経伝達はアセチルコリンによって行われている。

副交感神経を働かせる場合、アセチルコリンを分泌させてリラックスといった作用が出る。

ムスカリン受容体は分泌されたアセチルコリンを受け取ってそのシグナルを伝える。そのため、ムスカリン受容体が副交感神経の伝達を担っていると言える。

単純にまとめると、このようになる。

  • ムスカリン受容体作動 → 副交感神経↑
  • ムスカリン受容体遮断 → 副交感神経↓

ムスカリン受容体のサブタイプ

ムスカリン受容体には、M1~M5のサブタイプがある。それぞれの分布は以下のようになっている。

  • M1 – 脳(皮質、海馬)、腺、交感神経に分布
  • M2 – 心臓、後脳、平滑筋に分布
  • M3 – 平滑筋、腺、脳に分布
  • M4 – 脳(前脳、線条体)に分布
  • M5 – 脳(黒質)、眼に分布

出典:Wikipedia「アセチルコリン受容体」

主なM1~M3受容体が多く分布する部位は以下のようになる。

  • M1受容体:
    • 一部の自律神経節
    • 分泌細胞
    • 中枢神経
  • M2:心臓
  • M3
    • 平滑筋
    • 外分泌腺:汗腺、唾液腺など

ムスカリン受容体刺激による作用

ムスカリン受容体は副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンによって活性化される。そのため、ムスカリン受容体を作動すると副交感神経が高まる。

つまり、イメージとしては「ムスカリン受容体を作動させるとリラックスする」である。

具体的なムスカリン受容体刺激による作用を以下に挙げる。

  • 心臓では、洞房結節に作用し、心拍数を低下させる。
  • 消化器では、一般に消化管運動、消化液(胃酸・唾液)の分泌を促進する。
  • 血管平滑筋は拡張し、血圧が低下する。
  • 気管支平滑筋は収縮する。
  • 眼では、縮瞳し、眼圧が低下する。
  • 膀胱は収縮し排尿を促す。膀胱にはM2/M3受容体が多い。

出典:Wikipedia「アセチルコリン受容体」

そのため、ムスカリン受容体を刺激・遮断した場合、次のようになる。

  • M1刺激:胃酸分泌
  • M2遮断:心悸亢進(頻脈)
  • M3遮断:口渇、便秘

ニコチン受容体

ニコチン受容体はイオンチャネル型の受容体で、ニコチン受容体自体がイオンチャネルである。

アセチルコリンやニコチンがニコチン受容体に作用する。

自律神経(交感神経・副交感神経)や運動神経の伝達は、ニコチン受容体を介して行われる。そのため、腕を動かしたりといった運動はニコチン受容体を介して行われていることになる。

ニコチン受容体の存在部位

ニコチン受容体の存在部位として、末梢では以下が挙げられる。

  • 自律神経
    • 交感神経の節前線維終末
    • 副交感神経の節前線維終末
    • 副腎髄質での神経終末
  • 運動神経終末

ニコチン受容体の種類

ニコチン受容体の種類には筋肉型や末梢神経型があり、その分布は以下のようになっている。

  • 筋肉型(NM) – 神経筋接合部に分布
  • 末梢神経型(NN) – 自律神経節、副腎髄質に分布
  • 中枢神経型(CNS) – シナプスに分布

出典:Wikipedia「アセチルコリン受容体」

筋肉型(NM)のMは「Muscle(筋肉)」、
神経型(NN)のNは「Neuron(神経)」を意味している。

ニコチン受容体刺激による作用

ムスカリン受容体の場合、ムスカリン受容体を作動させると「副交感神経が高まる」というイメージがある。

しかしニコチン受容体の場合、交感神経、副交感神経ともにNN受容体を介して伝達が行われる。

自律神経である交感神経と副交感神経はそれぞれ相反するもので、

交感神経が高まっているときは副交感神経が抑えられ、
副交感神経が高まっているときは交感神経が抑えられる、

といったように体の機能が調整されている。

組織や臓器によって、交感神経と副交感神経、どちらの神経が主に支配するかが違う。

例を以下に挙げる。

  • 血管平滑筋は交感神経が優位に支配しており、NN受容体を介して血圧が上がる
  • 消化器系は副交感神経系が優位に支配しており、NN受容体を介して消化器機能が活発になる

アセチルコリン受容体に作用する薬

副交感神経興奮薬(コリン作動薬)

  • 直接型コリン作動薬
    • コリンエステル類
      • アセチルコリン(ACh
    • 合成コリンエステル類
      • ベタネコール
      • カルバコール
      • メタコリン
      • アクラトニウム
    • コリン作動性アルカロイド
      • ムスカリン
      • ピロカルピン:緑内障
      • ジスチグミン
    • その他
      • カルプロニウム : 脱毛症(外用)、消化管機能低下症(内服)
      • セビメリン
  • 間接型コリン作動薬
    •  可逆的コリンエステラーゼ阻害薬
      • 天然品
        • フィゾスチグミン
      • 合成品
        • ネオスチグミン
        • ピリドスチグミン
        • アンベノニウム:作用時間長い → 重症筋無力症の治療に
        • エドロホニウム:作用時間短い → 重症筋無力症の診断に

 

  •  非可逆的コリンエステラーゼ阻害薬・・・解毒薬:2-PAM(プラリドキシム)、アトロピン
    • 有機リン系農薬
      • パラチオン
      • フェニトロチオン
      • マラチオン
    • カルバメート系農薬
      • カルバリル
    • サリン

副交感神経遮断薬(抗コリン薬)

  • 抗コリン薬・・・禁忌:緑内障
    • ベラドンナアルカロイド
      • アトロピン
      • スコポラミン
    • 散瞳薬
      • ホマトロピン
      • トロピカミド
      • シクロペントラート
    •  鎮痙薬
      • プロパンテリン
      • ブチルスコポラミン
      • メペンゾラート
      • プリフィニウム
    •  消化性潰瘍の治療薬
    • 気管支収縮抑制薬
      • イプラトロピウム
      • オキシトロピウム
      • チオトロピウム
      • グリコピロニウム(商品名:ウルティブロ吸入用カプセル)
    • 鎮痙、切迫流産・早産防止薬
      • ピペリドレート
    • 頻尿の治療薬
      • プロピベリン
      • オキシブチニン
      • ソリフェナシン
      • イミダフェナシン
      • トルテロジン
      • フェソテロジン
    • パーキンソン病の治療薬
      • トリヘキシフェニジル
      • ビペリデン
      • マザチコール:中枢性抗コリン薬
      • ピロヘプチン
      • マザチコール
      • プロフェナミン
      • メチキセン

関連

他の受容体についても参考に。