Gタンパク質共役型受容体

Gタンパク質共役型受容体(GPCR)とは、名のとおりGタンパク質と共役して情報の伝達を行う受容体である。

Gタンパク質共役型受容体について、
英語 : GTP-binding protein-coupled receptor (GPCR)

そのため、
GPCR : 「GTPと結合したタンパク質」がカップル(共役)された受容体
となる。

この「GTPと結合したタンパク質(GTP結合タンパク質)」とは、Gタンパク質のことである。

Gタンパク質共役型受容体リガンドが結合すると、Gタンパク質を介して効果器(酵素)の活性が変化する。そうして細胞内にシグナルが伝わり、生体反応が起きる。

受容体分類での位置

受容体の分類における、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の位置づけは次のようになっている。

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GPCRの特徴

特徴
  • 分子量 40~60 kDa1本鎖タンパク質(単量体)
  • 細胞膜を回出入りする(分子内に疎水性アミノ酸が多い領域が7つある)
  • 回膜貫通型受容体(seven-transmembrane(7TM)型受容体)とも呼ばれる
  • 代謝型受容体とも呼ばれる(アゴニスト刺激により、GTPの代謝を伴って細胞内シグナルを伝えるため)
  • 他の型の受容体より圧倒的に種類が多い(最も大きなグループを構成)
  • ヒトでは700種類以上
  • 神経伝達物質、オータコイド、ホルモンのほとんどはGPCRに結合することで作用を現す
  • Gタンパク質と共役してシグナル伝達(情報伝達)を行う

GPCRの存在場所

  • ニューロン
  • 骨格筋
  • 心筋
  • 平滑筋
  • 内分泌細胞
  • アストロサイト

などに発現している。

GPCRの役割

細胞外の神経伝達物質やホルモンを受け取り、その情報(シグナル)を細胞内に伝える。

シグナルの伝達は、GPCRと共役するGタンパク質を介して行われる。

GPCRは、細胞外の情報を細胞内へ伝え、細胞の興奮性や生理機能の調節を行う。そのため、幅広く生体のホメオスタシスの維持に関わっている。

孤児受容体(orphan receptor)の存在

GPCRには、内因性リガンドが不明のGPCRが多数存在するという。

そのような、「リガンドが特定されていない受容体」のことを、
孤児受容体(オーファン受容体)という。

つまり、
「こんな受容体が見つかったけど、それに結合する物質がわからないんだよね」
というような受容体のことである。

GPCRが極めて重要である理由

医療に用いられている薬の約半数は、直接的もしくは間接的にGPCRを標的としている。

世の中にある薬の半分はGPCRが関わっているということである。

そのため、薬理学や生理学においてとても重要である。薬やホルモンなどの作用機構・生体反応を詳しく理解するためには、GPCRについて知っておく必要がある。

リガンドの結合部位

Gタンパク質共役型受容体(上から)

リガンドの結合部位については、7つの膜貫通領域によって形成されるポケットにリガンドが結合すると考えられている。

GPCRの種類

GPCRは、GPCRを刺激する内因性生理活性物質により次のように分類される。

GPCRの種類
  • 生理活性アミン受容体
  • 神経性アミノ酸受容体
    • GABAB受容体
    • 代謝性グルタミン酸受容体
  • 生理活性ヌクレオシド・ヌクレオチド受容体
    • アデノシン受容体
    • P2Y受容体
  • 生理活性ペプチド受容体
    • アンギオテンシン受容体
    • ブラジキニン受容体
    • エンドセリン受容体
    • オピオイド受容体
    • タキキニン受容体
    • など

  • 脂質メディエーター受容体
    • エイコサノイド受容体
    • ロイコトリエン受容体
    • など

  • タンパク質ホルモン受容体
    • グルカゴン受容体
    • など

他に、

  • 感覚受容器受容体
  • Ca2+感受性受容体
  • カンビノイド受容体

などがある

また、主な3つのGタンパク質の種類により分けると次のようになる

Gタンパク質ごとの受容体まとめ
  • Gsと共役するGPCR
    • アドレナリンβ1受容体、アドレナリンβ2受容体
    • ヒスタミンH2受容体
    • ドパミンD1受容体
    • グルカゴン受容体
    • 5-HT4受容体(セロトニン受容体)
    • バソプレシンV2受容体
    • プロスタノイドIP1受容体(=PGI2受容体=プロスタサイクリン受容体)
    • アデノシンA2受容体
    • パラトルモン受容体   など
  • Giと共役するGPCR
    • アドレナレリンα2受容体
    • アセチルコリン(ムスカリン)M2受容体
    • ドパミンD2受容体
    • GABAB受容体
    • 5-HT1受容体(セロトニン受容体)
    • アデノシンA1受容体
    • カンナビノイドCB1・CB2受容体
    • オピオイドμ受容体      など
  • Gqと共役するGPCR
    • アドレナリンα1受容体
    • アセチルコリン(ムスカリン)M1・M3受容体
    • ヒスタミンH1受容体
    • 5-HT2受容体(セロトニン受容体)
    • アンギオテンシンAT1受容体
    • バソプレシンV1受容体
    • ブラジキニン受容体
    • LT受容体(ロイコトリエン受容体)
    • プロスタノイドEP1受容体(プロスタグランジンPGE2受容体)
    • プロスタノイドFP受容体(PGF受容体)
    • プロスタノイドTP受容体(TXA2受容体)
    • トロンビン受容体     など

Gタンパク質について

Gタンパク質は、Gタンパク質共役型受容体というように、GPCRの名前の由来にもなっている。
これは、すべてのGPCRがGタンパク質を介して情報伝達を行うからである。

Gタンパク質には4種類(主に3種類:Gs, Gi/o, Gq)あり、それぞれで情報伝達の内容が異なる。
次の4種類である。

Gタンパク質の種類
  • Gs
  • Gi/o
  • Gq
  • Gt

Gsの「s」は「stimulate:刺激する、興奮させる」を意味する。このことからもわかるように、Gsは興奮性のシグナル伝達を行う。例えば、アドレナリンβ1受容体はGsと共役しており、作動薬により心臓がバクバクするといった心機能の亢進が見られる。Gsが伝達する情報のイメージは「興奮である。

Giの「i」は「inhibit:抑制する」を意味する。GiはGsとは反対のGタンパク質で、抑制性のシグナル伝達を行う。例えば、オピオイドμ受容体はGi/oと共役しており、作動薬(モルヒネなど)により鎮静作用が発現し、痛みを抑えられる。Giが伝達する情報のイメージは「抑制である。

Gqの「q」の由来については不明で、世界的な男性ファッション雑誌「GQ」が由来になっているという噂がある。Gqはさまざまな調節のシグナル伝達を行う。例えば、血管平滑筋にあるアドレナリンα1受容体はGqと共役しており、受容体刺激により血管が収縮する。

GtはトランスデューシンというGタンパク質であり、「t」はトランスデューシンからきていると考えられる。Gt(トランスデューシン)は、網膜に存在するロドプシン(光受容体)と共役する。そのため、GPCRはロドプシン型受容体と呼ばれることもある。

GPCRの種類やそのサブタイプによって、共役するGタンパク質の種類は異なる。

※サブタイプとは、分けた種類の中で、さらに構造や機能の点で異なるタイプに分けたタイプのことである。
例えば、アドレナリン受容体であれば、

  • アドレナリンα1受容体
  • アドレナリンβ1受容体

というのがサブタイプである。

アドレナリンα1受容体はGqと共役し、Gqはさまざまな調節のシグナル伝達を行う。
アドレナリンβ1受容体はGsと共役し、Gsは興奮性のシグナル伝達を行う。

このように、すべてのアドレナリン受容体はアドレナリンと結合するが、すべてのアドレナリン受容体がすべて同じ内容の情報伝達を行っていない。

サブタイプごとに共役するGタンパク質は異なり、それぞれで伝達する内容が異なっている。

GPCRの種類は多く、それぞれのGPCRはどんな経路で生体反応を起こすのか分かりにくい。しかし、GPCRと共役するGタンパク質は主に3種類(Gs, Gi, Gq)だけである。そのため、GPCRがどのGタンパク質と共役するか最初に分かれば、Gタンパク質の種類によってその受容体がどんな情報を伝達するのかイメージできる。

「このGPCRはGsと共役するから、この受容体を作動したら活発な生体反応が起きるのかな?」

「このGPCRはGiと共役するから、この受容体を作動したら活発な生体反応が抑えられるのかな?」

このようにイメージすると受容体の理解を楽に深めることができる。

それぞれのGタンパク質のシグナル経路

それぞれのGタンパク質の細胞内のシグナル経路について以下にまとめる。

Gs
Gsの活性化
→ アデニル酸シクラーゼ(AC)の活性化
→ 細胞内のサイクリックAMP(cAMP)量増加
→ cAMPはプロテインキナーゼA(PKAやAキナーゼともいう)を活性化
→ PKAの活性化を介していろんな生理機能の変化を起こす
Gi
Giの活性化
→ アデニル酸シクラーゼ(AC)の活性化を抑制
→ 細胞内のcAMP減少
(心筋では、Giの活性化によりK+チャネルの開口確率が上がり、心筋細胞は過分極する)
Gq

Gqの活性化
→ ホスホリパーゼC-β(PLC-β)を活性化
→ 細胞内のイノシトール 1, 4, 5 -三リン酸(IP3あるいはInsP3) と
  ジアシルグリセロール(DG)量増加

IP3
細胞内Ca2+貯蔵部位に存在するIP3受容体に結合
Ca2+遊離を促す
→ 細胞内に遊離するCa2+濃度上昇

DG
プロテインキナーゼC(PKC)を活性化
→ 様々な細胞機能を調節

※GiにもPLC-βを活性化するものがある。
※PLC-βの活性化を介して細胞内遊離Ca2+濃度上昇を引き起こす受容体を、Ca2+受容体と呼ぶことがある。

Gt
サイクリックGMP(cGMP)に特異的なホスホジエステラーゼ活性化
cGMPの加水分解促進

関連

他の受容体についても参考に。