アスピリン(アセチルサリチル酸)は、「薬を知るならまずこの薬から」、というほど代表的な薬です。それは、世界で初めて人工的に合成された薬がアスピリンだからです。

アスピリンは有名な消炎鎮痛剤であり、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)という種類の薬になります。

このアスピリンは高校の化学でも取りあげられ、その合成法なども学習範囲に入っています。

アスピリン?アセチルサリチル酸?

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アセチルサリチル酸

出典:Wikipedia「アセチルサリチル酸」

「アスピリン(アセチルサリチル酸)」

よく上記のように示されるアスピリンですが、名前の意味はどういうことなのでしょうか?

結論からいうと、「アセチルサリチル酸」というのは言ってしまえば化合物の名前です。サリチル酸がアセチル化されたものです。

対して「アスピリン」というのは、アセチルサリチル酸の薬としての名前です。

ドイツのバイエル社によって、アセチルサリチル酸の薬としての名が「アスピリン」とつけられました。

そして「アスピリン」の名が広がり、一般的に「アセチルサリチル酸」が「アスピリン」と呼ばれるようになりました。

そのため、「アスピリン」というのは「一般名(薬物名)」です。

薬の一般名(薬物名)や商品名(販売名)については以下の記事をご覧ください。

「アスピリン」の名前の由来

アスピリンの名前の由来についてです。

アスピリン(Aspirin)の名前は、

「アセチル(Acetyl)」の「A」、
シモツケソウの樹液に含まれサリチル酸と構造が同じ「スピール酸(Spirsaure)」の「Spir」、
化合物の語尾によくつけられる「in」

からつけられたものです。

アスピリンの適応:どんな症状に用いられているのか?

アスピリンは以下のような症状に用いられています。

(1) *
関節リウマチ、リウマチ熱、変形性関節症、強直性脊椎炎、関節周囲炎、結合織炎、術後疼痛、歯痛、症候性神経痛、関節痛、腰痛症、筋肉痛、捻挫痛、打撲痛、痛風による痛み、頭痛、月経痛

(2)
下記疾患の解熱・鎮痛
 急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)

出典:アスピリン「ケンエー」添付文書

このようにアスピリンは主に、炎症や痛み、発熱を抑えるのに用いられています。

アスピリンの作用は?

アスピリン(アセチルサリチル酸)の作用としては、以下のようなものがあります。

  • 消炎
  • 解熱
  • 鎮痛
  • 抗血小板作用

体内には「プロスタグランジン(PG)」という痛みや発熱、炎症を起こす物質があります。

アスピリンはこのプロスタグランジンを抑えることで痛みや発熱、炎症を抑えます。

アスピリンの作用機序:COX阻害。他のNSAIDsとは少し違う?

アスピリンはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)という種類の薬です。

NSAIDsが痛みや炎症に効くしくみは、「痛みや炎症を起こすプロスタグランジンの生成を抑制する」です。

そのため、アスピリンもそのような作用機序になります。

COX阻害とは?

少し具体的な話になりますが、プロスタグランジン(PG)はシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素によってアラキドン酸から作られます。

図的に表すと、上の図でも示していますが(ロキソニンもNSAIDs)このようになります。

アラキドン酸
↓ シクロオキシゲナーゼ(COX)
プロスタグランジン(PG)

具体的には、アスピリンやロキソニン含め、NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを抑える(阻害する)ことでプロスタグランジンの生成を抑え、効果を発揮します。

アスピリンのCOX阻害、何が少し違うのか?

ロキソニンといった一般的な多くのNSAIDsは、シクロオキシゲナーゼ(COX)がアラキドン酸と結合するのを防ぐことで、COXを阻害しています。

(シクロオキシゲナーゼがアラキドン酸を結合することでアラキドン酸をプロスタグランジンに変換します)

そんなNSAIDsの作用機序ですが、アスピリンの作用機序は少し違います。

アスピリンは、シクロオキシゲナーゼ(COX)をアセチル化することでCOXを阻害し、プロスタグランジンの合成を阻害しています。

これが多くのNSAIDsとは違うところです。

アスピリンと同じくNSAIDsであるロキソニンの記事は以下です。

アスピリンを低用量で用いると抗血小板作用がある

アスピリンには、抗血小板作用というのもあります。

抗血小板作用というのは、簡単に言えば「血液を固まりにくくする、サラサラにする」ということです。

血小板が凝集することで血液が固まりますから、それを防ぐ作用が「抗血小板作用」です。

アスピリンには、血液を固まりにくくする(サラサラにする)作用があります。

ただし、アスピリンが抗血小板作用を持つのは低用量で用いた時だけです。

低用量というのは、服用するアスピリンの成分量を少なくすることです。このことについて詳しく説明していきます。

プロスタグランジンのいろいろな作用:血小板凝集抑制

プロスタグランジン(PG)は痛みや熱を起こすと言いましたが、ほかにもいろんな作用があります。

そのうちの一つに「血小板凝集を抑制する」というのがあります。つまり「血液を固まりにくくする、サラサラにする」作用です。

「あれ?アスピリンとかのNSAIDsはプロスタグランジンの合成を抑えるんだよね?それだと、血小板凝集の抑制が抑制されるんじゃ(血小板が凝集する)・・・?」

こう考えると思います。結論から言いますが、アスピリンを低用量で用いた場合、プロスタグランジンの合成は抑制されません

そのため、アスピリンを低用量で使うと、プロスタグランジンの血小板凝集抑制作用(血液を固まりにくくする作用)は保たれます。

COX阻害でTXA2の合成も阻害する

シクロオキシゲナーゼ(COX)によってアラキドン酸から作られるのは、プロスタグランジン(PG)だけではありません。

COXにより、トロンボキサンA2(TXA2)という物質も作られます。そのため、NSAIDsがCOXを阻害してしまうと、TXA2の合成も阻害されてしまいます。

このTXA2には、血小板凝集を促進する(血液を固まりやすくする)作用があります。

そのため、NSAIDsのCOX阻害により、TXA2の生成を抑えたら血小板凝集を抑制する(血液を固まりにくくする)ことになります。

アスピリンを低用量で使った場合、プロスタグランジンの生成は阻害されないんでした。TXA2は・・・?

合成阻害されないプロスタグランジンに対して、TXA2の合成は阻害されます

つまりアスピリンを低用量で使った場合、TXA2の合成は阻害され、血小板凝集が抑制される(血液が固まりにくくなる)ことになります。

アスピリンが低用量の場合、TXA2の合成だけが阻害されるということです。

まとめ:低用量アスピリンで血小板凝集を抑制する

要は、「低用量でアスピリンを使うと血小板凝集を抑制する(血液を固まりにくくする)作用がある」ということです。

プロスタグランジン(PG)やトロンボキサンA2(TXA2)について整理すると、以下のようになります。

  • 一般的な用量でアスピリンを用いると?:
    • PG、TXA2ともに合成が阻害される
  • 低用量アスピリンを用いると?:TXA2だけ合成が阻害される
    • PGの合成は阻害されない → 血小板凝集抑制作用
    • TXA2の合成は阻害される → 血小板凝集抑制作用

 

  • PG:血小板凝集を抑制する作用がある
  • TXA2:血小板凝集を促進する作用がある

アスピリンの元はヤナギ(柳)の木

Yanagi.jpg
出典:Wikipedia「ヤナギ」

鎮痛効果のあるアスピリン(アセチルサリチル酸)はサリチル酸から合成されますが、サリチル酸にも鎮痛効果があります。

このサリチル酸の鎮痛効果は、紀元前から用いられていました。

サリチル酸はヤナギの木に含まれており、ヤナギの樹皮や葉を用いると痛みを和らげることができていたからです。

サリチル酸をアセチルサリチル酸にする意味は?

サリチル酸にも鎮痛効果がありますが、今ではアセチルサリチル酸(アスピリン)として使われています。なぜでしょう?

それは、サリチル酸の副作用として胃腸障害が出るというのがあったからです。

サリチル酸をアセチル化したアセチルサリチル酸はそういった副作用が少ないと分かり、アセチルサリチル酸として使われるように至ります。

アセチルサリチル酸の合成法

アセチルサリチル酸の合成法について簡単に説明します。

フェノール → サリチル酸

まず、フェノールからサリチル酸への合成は以下のようになります。

コルベ・シュミット反応によるサリチル酸合成。
出典:Wikipedia「アセチルサリチル酸」

  1. フェノールを高温高圧下でCO2とNaOHを反応させて二ナトリウム塩を得る(コルベ・シュミット反応)
  2. 二ナトリウム塩を希硫酸で中和し、サリチル酸を得る

サリチル酸 → アセチルサリチル酸

サリチル酸からアセチルサリチル酸への合成は以下のようになります。

サリチル酸のアセチル化。
出典:Wikipedia「アセチルサリチル酸」

サリチル酸に無水酢酸を反応させてアセチル化すると、アセチルサリチル酸が得られます。

http://kusuri-yakugaku.com/wp-content/uploads/2017/01/de09fdbf63bf898e83c7d29b326474df.jpghttp://kusuri-yakugaku.com/wp-content/uploads/2017/01/de09fdbf63bf898e83c7d29b326474df-150x150.jpgTomクスリアスピリン(アセチルサリチル酸)は、「薬を知るならまずこの薬から」、というほど代表的な薬です。それは、世界で初めて人工的に合成された薬がアスピリンだからです。 アスピリンは有名な消炎鎮痛剤であり、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)という種類の薬になります。 このアスピリンは高校の化学でも取りあげられ、その合成法なども学習範囲に入っています。 アスピリン?アセチルサリチル酸? アセチルサリチル酸 出典:Wikipedia「アセチルサリチル酸」 「アスピリン(アセチルサリチル酸)」 よく上記のように示されるアスピリンですが、名前の意味はどういうことなのでしょうか? 結論からいうと、「アセチルサリチル酸」というのは言ってしまえば化合物の名前です。サリチル酸がアセチル化されたものです。 対して「アスピリン」というのは、アセチルサリチル酸の薬としての名前です。 ドイツのバイエル社によって、アセチルサリチル酸の薬としての名が「アスピリン」とつけられました。 そして「アスピリン」の名が広がり、一般的に「アセチルサリチル酸」が「アスピリン」と呼ばれるようになりました。 そのため、「アスピリン」というのは「一般名(薬物名)」です。 薬の一般名(薬物名)や商品名(販売名)については以下の記事をご覧ください。 「アスピリン」の名前の由来 アスピリンの名前の由来についてです。 アスピリン(Aspirin)の名前は、 「アセチル(Acetyl)」の「A」、 シモツケソウの樹液に含まれサリチル酸と構造が同じ「スピール酸(Spirsaure)」の「Spir」、 化合物の語尾によくつけられる「in」 からつけられたものです。 アスピリンの適応:どんな症状に用いられているのか? アスピリンは以下のような症状に用いられています。 (1) * 関節リウマチ、リウマチ熱、変形性関節症、強直性脊椎炎、関節周囲炎、結合織炎、術後疼痛、歯痛、症候性神経痛、関節痛、腰痛症、筋肉痛、捻挫痛、打撲痛、痛風による痛み、頭痛、月経痛 (2) 下記疾患の解熱・鎮痛  急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む) 出典:アスピリン「ケンエー」添付文書 このようにアスピリンは主に、炎症や痛み、発熱を抑えるのに用いられています。 アスピリンの作用は? アスピリン(アセチルサリチル酸)の作用としては、以下のようなものがあります。 消炎 解熱 鎮痛 抗血小板作用 体内には「プロスタグランジン(PG)」という痛みや発熱、炎症を起こす物質があります。 アスピリンはこのプロスタグランジンを抑えることで痛みや発熱、炎症を抑えます。 アスピリンの作用機序:COX阻害。他のNSAIDsとは少し違う? アスピリンはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)という種類の薬です。 NSAIDsが痛みや炎症に効くしくみは、「痛みや炎症を起こすプロスタグランジンの生成を抑制する」です。 そのため、アスピリンもそのような作用機序になります。 COX阻害とは? 少し具体的な話になりますが、プロスタグランジン(PG)はシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素によってアラキドン酸から作られます。 図的に表すと、上の図でも示していますが(ロキソニンもNSAIDs)このようになります。 アラキドン酸 ↓ シクロオキシゲナーゼ(COX) プロスタグランジン(PG) 具体的には、アスピリンやロキソニン含め、NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを抑える(阻害する)ことでプロスタグランジンの生成を抑え、効果を発揮します。 アスピリンのCOX阻害、何が少し違うのか? ロキソニンといった一般的な多くのNSAIDsは、シクロオキシゲナーゼ(COX)がアラキドン酸と結合するのを防ぐことで、COXを阻害しています。 (シクロオキシゲナーゼがアラキドン酸を結合することでアラキドン酸をプロスタグランジンに変換します) そんなNSAIDsの作用機序ですが、アスピリンの作用機序は少し違います。 アスピリンは、シクロオキシゲナーゼ(COX)をアセチル化することでCOXを阻害し、プロスタグランジンの合成を阻害しています。 これが多くのNSAIDsとは違うところです。 アスピリンと同じくNSAIDsであるロキソニンの記事は以下です。 アスピリンを低用量で用いると抗血小板作用がある アスピリンには、抗血小板作用というのもあります。 抗血小板作用というのは、簡単に言えば「血液を固まりにくくする、サラサラにする」ということです。 血小板が凝集することで血液が固まりますから、それを防ぐ作用が「抗血小板作用」です。 アスピリンには、血液を固まりにくくする(サラサラにする)作用があります。 ただし、アスピリンが抗血小板作用を持つのは低用量で用いた時だけです。 低用量というのは、服用するアスピリンの成分量を少なくすることです。このことについて詳しく説明していきます。 プロスタグランジンのいろいろな作用:血小板凝集抑制 プロスタグランジン(PG)は痛みや熱を起こすと言いましたが、ほかにもいろんな作用があります。 そのうちの一つに「血小板凝集を抑制する」というのがあります。つまり「血液を固まりにくくする、サラサラにする」作用です。 「あれ?アスピリンとかのNSAIDsはプロスタグランジンの合成を抑えるんだよね?それだと、血小板凝集の抑制が抑制されるんじゃ(血小板が凝集する)・・・?」 こう考えると思います。結論から言いますが、アスピリンを低用量で用いた場合、プロスタグランジンの合成は抑制されません。 そのため、アスピリンを低用量で使うと、プロスタグランジンの血小板凝集抑制作用(血液を固まりにくくする作用)は保たれます。 COX阻害でTXA2の合成も阻害する シクロオキシゲナーゼ(COX)によってアラキドン酸から作られるのは、プロスタグランジン(PG)だけではありません。 COXにより、トロンボキサンA2(TXA2)という物質も作られます。そのため、NSAIDsがCOXを阻害してしまうと、TXA2の合成も阻害されてしまいます。 このTXA2には、血小板凝集を促進する(血液を固まりやすくする)作用があります。 そのため、NSAIDsのCOX阻害により、TXA2の生成を抑えたら血小板凝集を抑制する(血液を固まりにくくする)ことになります。 アスピリンを低用量で使った場合、プロスタグランジンの生成は阻害されないんでした。TXA2は・・・? 合成阻害されないプロスタグランジンに対して、TXA2の合成は阻害されます。 つまりアスピリンを低用量で使った場合、TXA2の合成は阻害され、血小板凝集が抑制される(血液が固まりにくくなる)ことになります。 アスピリンが低用量の場合、TXA2の合成だけが阻害されるということです。 まとめ:低用量アスピリンで血小板凝集を抑制する 要は、「低用量でアスピリンを使うと血小板凝集を抑制する(血液を固まりにくくする)作用がある」ということです。 プロスタグランジン(PG)やトロンボキサンA2(TXA2)について整理すると、以下のようになります。 一般的な用量でアスピリンを用いると?: PG、TXA2ともに合成が阻害される 低用量アスピリンを用いると?:TXA2だけ合成が阻害される PGの合成は阻害されない → 血小板凝集抑制作用 TXA2の合成は阻害される → 血小板凝集抑制作用   PG:血小板凝集を抑制する作用がある TXA2:血小板凝集を促進する作用がある アスピリンの元はヤナギ(柳)の木 出典:Wikipedia「ヤナギ」 鎮痛効果のあるアスピリン(アセチルサリチル酸)はサリチル酸から合成されますが、サリチル酸にも鎮痛効果があります。 このサリチル酸の鎮痛効果は、紀元前から用いられていました。 サリチル酸はヤナギの木に含まれており、ヤナギの樹皮や葉を用いると痛みを和らげることができていたからです。 サリチル酸をアセチルサリチル酸にする意味は? サリチル酸にも鎮痛効果がありますが、今ではアセチルサリチル酸(アスピリン)として使われています。なぜでしょう? それは、サリチル酸の副作用として胃腸障害が出るというのがあったからです。 サリチル酸をアセチル化したアセチルサリチル酸はそういった副作用が少ないと分かり、アセチルサリチル酸として使われるように至ります。 アセチルサリチル酸の合成法 アセチルサリチル酸の合成法について簡単に説明します。 フェノール → サリチル酸 まず、フェノールからサリチル酸への合成は以下のようになります。 出典:Wikipedia「アセチルサリチル酸」 フェノールを高温高圧下でCO2とNaOHを反応させて二ナトリウム塩を得る(コルベ・シュミット反応) 二ナトリウム塩を希硫酸で中和し、サリチル酸を得る サリチル酸 → アセチルサリチル酸 サリチル酸からアセチルサリチル酸への合成は以下のようになります。 出典:Wikipedia「アセチルサリチル酸」 サリチル酸に無水酢酸を反応させてアセチル化すると、アセチルサリチル酸が得られます。