レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)とは、簡単にいうと「血圧を調節」するためのしくみのことである。
血圧が下がってきてレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系がはたらくと、血圧は上がる。
逆に血圧が上がってきてレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が抑制されると、血圧は下がる。
このように体内で血圧はコントロールされている。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系:Renin-Angiotensin-Aldosterone System(RAAS)
詳しく
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)は詳しくいうと、血圧や血漿浸透圧の調節にかかわる生理活性物質の反応系のことである。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は腎臓を起点とする調節機構である。
アンジオテンシン(angiotensin)の「angio」は「血管」を意味する。アンジオテンシンは、「angiotensin」の読み方の違いからアンギオテンシンとも呼ばれる。そのため、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系ともいう。
血圧を上げる方向に作用するレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は、血圧低下や腎臓の循環血液量の低下によって活性化される。つまり血圧が下がってきたらレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は活性化し、血圧を上げる。
流れ(機序)
全体の流れ
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の名のとおり、
- レニン
- アンジオテンシンⅡ
- アルドステロン
これらが血圧上昇にかかわる。
おおざっぱな流れとしては、
血圧低下
→ レニン分泌
→ アンジオテンシンⅡが変換されてできる
→ アンジオテンシンⅡがいろいろ作用して血圧上げる
アルドステロンはアンジオテンシンⅡにより分泌が促進され、血圧を上げる方向にはたらく。
血圧↓ → レニン分泌
血圧が下がると、レニンが分泌される。具体的に説明していく。
腎臓の傍糸球体装置で血圧低下(腎血流量↓、血中Na+↓、原尿中Cl–↓)を感知すると、傍糸球体細胞からレニン(タンパク質分解酵素)が血液中に分泌される。
- 腎傍糸球体で血圧↓を感知
→ 傍糸球体細胞からレニン分泌
傍糸球体細胞
傍糸球体細胞は名のとおり糸球体の傍らにある細胞で、糸球体に血液を送り込む輸入細動脈の周りに存在する。
この傍糸球体細胞がレニンを分泌する。
緻密斑(マクロデンサ):Cl–濃度のセンサー
原尿中Cl–濃度の低下を感知するセンサーは、緻密斑(マクロデンサ)と呼ばれる。
緻密斑(マクロデンサ)は、遠位尿細管が輸入細動脈と輸出細動脈に接近するところに存在する。
この緻密斑(マクロデンサ)が原尿中Cl–濃度の低下を感知すると、傍糸球体細胞からレニンの分泌が促進される。
- 緻密斑(マクロデンサ)が原尿中Cl–↓を感知
→ 傍糸球体細胞からレニンの分泌↑
アンジオテンシノーゲン → アンジオテンシンⅠ
レニンは、肝臓や肥大化脂肪細胞から分泌されるアンジオテンシノーゲンを一部分解し、アンジオテンシンⅠに変換する。
- レニンにより、
アンジオテンシノーゲン → アンジオテンシンⅠ
アンジオテンシンⅠ → アンジオテンシンⅡ
アンジオテンシンⅠは、肺の毛細血管内皮細胞に存在するアンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンⅡに変換される。
- アンジオテンシン変換酵素(ACE)により、
アンジオテンシンⅠ → アンジオテンシンⅡ
アンジオテンシン変換酵素(ACE)は、キニン-カリクレイン系ではキニナーゼⅡといい、ブラジキニンの分解にかかわる。
アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡに変換する酵素はアンジオテンシン変換酵素(ACE)の他に、
- キマーゼ
- カテプシンG
といったものがある。
アンジオテンシンⅡの作用:血圧↑
アンジオテンシンⅡの作用を一言でいうと、「血圧を上げる」である。
アンジオテンシンⅡは、次のような部位のアンジオテンシンⅡ 受容体(主にAT1受容体)を刺激して血圧を上げる。
- 副腎皮質球状層
→ アルドステロン分泌
→ 遠位尿細管のNa+再吸収↑
→ Na+, H2O貯留 - 副腎髄質 → アドレナリン放出
- 血管 → 血管収縮
→ 血圧↑
アルドステロンの分泌↑
アンジオテンシンⅡは副腎皮質球状層のアンジオテンシンⅡ 受容体(主にAT1受容体)に作用し、アルドステロンの分泌を促進する。
アルドステロンは尿細管に作用し、Na+・H2Oの再吸収を促進する。また、アルドステロンはカリウムの再吸収を抑制する。
具体的には、アルドステロンは尿細管終末部(特に集合管)のアルドステロン受容体に作用し、Na+チャネルの発現を促す。それによりNa+の再吸収を促進させる。
それにより体の体液量が増えて血圧が上がる。
アドレナリン放出
アンジオテンシンⅡは副腎髄質のアンジオテンシンⅡ 受容体(主にAT1受容体)に作用し、アドレナリンを放出する。
アドレナリンが放出されると、ドキドキ(心機能↑、血管収縮)して血圧が上がる。
血管収縮
アンジオテンシンⅡは血管のアンジオテンシンⅡ 受容体(主にAT1受容体)に作用し、血管を収縮させる。
そのため、血圧が上がる。
RAA系のはたらき
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系のはたらきは大まかにいうと「血圧を上げる」ことだが、具体的にまとめると以下のようになる。
- 血圧↑
- Na+再吸収↑
- H2O再吸収↑
RAA系は高血圧の原因の一つ
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化されると、さまざまな昇圧物質が分泌され、血圧が上がる。
そのため、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系は高血圧の原因の一つとされる。
心不全はRAA系を活性化させる
心不全になると心臓の機能が低下し、全身に血液を十分送り出せなくなる。
そうなると腎臓をめぐる血液量も低下し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化され、血圧を上げる方向にはたらく。
これにより、さらに心臓に負担をかけて悪化させる。
このように、心不全ではレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系によって悪循環に陥ってしまう。
RAA系にかかわる薬:高血圧の薬
レニン阻害薬
- アリスキレン
アリスキレンは、レニンの作用を直接阻害し、血圧上昇を抑える。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
- カプトプリル
- リシノプリル
- エナラプリル
- アラセプリル
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は高血圧の治療に用いられ、アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害することでアンジオテンシンⅡの産生を抑制する。
それにより血圧上昇を抑える。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)の名前の特徴
上に示したアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)の一般名からもわかるが、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)の名前の特徴は、
語尾に「~プリル」
とつく点である。
そのため、薬の名前を見て語尾に「~プリル」とつけば、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)だとわかる。
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
- 第一世代
- ロサルタン(商品名:ニューロタン)
- バルサルタン(商品名:ディオバン)
- カンデサルタンシレキセチル(商品名:ブロプレス)
- 第二世代
- テルミサルタン(商品名:ミカルディス)
- オルメサルタン メドキソミル(商品名:オルメテック)
- イルベサルタン(商品名:アバプロ/イルベタン)
- アジルサルタン(商品名:アジルバ)
これらアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)も高血圧の治療に用いられ、アンジオテンシンⅡ受容体を阻害することで血圧上昇を抑える。
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の名前の特徴
上に示したアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の一般名からもわかるが、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の名前の特徴は、
語尾に「~サルタン」
とつく点である。
アラブ(ARB)の猿たん(~サルタン)
そのため、薬の名前を見て語尾に「~サルタン」とつけば、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)だとわかる。
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