潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、大腸にびらんや潰瘍を形成して炎症が起きる、炎症性腸疾患である。
主な症状としては、
- 持続的な粘血便を伴うもしくは伴わない下痢
- 腹痛
が見られる。
潰瘍性大腸の特徴として、
- 原因がはっきり分かっていない
- 経過中に再燃寛解(悪くなったり、良くなったり)を繰り返す
というのが挙げられる。
他に血便が見られるものに、出血感染性腸炎や痔疾患があるため、これらと区別する必要がある。
目次 (項目へとびます)
どれくらいの人がかかるのか?どんな人が?
日本では、100万人に1000人(1000人に1人)と言われている。
日本での総患者数は、143,733人と報告されている(平成24年度特定疾患医療給付者証交付件数から)。
日本では、ここ20年で患者数は3倍以上であり、毎年約5000人ずつ増えている。
推定の発症年齢のピークは、男女で次のようになっている。
- 男性:20~24歳
- 女性:25~29歳
男女で発症頻度の差は少ない。潰瘍性大腸炎になって長く経過すると、大腸癌になる可能性もある。
原因
潰瘍性大腸炎の原因は不明であるが、次のような原因が考えられている。
- 腸内細菌叢の乱れが大腸の炎症を誘発している
- 自己免疫異常
- 食生活
- ストレス など
また、最近では遺伝も関係していると指摘されているが、明らかではない。
症状
症状としては,
- 排便回数が増える
- 下痢
- 血便(粘血便など)
- 全身症状(発熱や貧血など)
がみられる。これらがあるかどうかで重篤度が判定される。
下痢は特徴的な症状の一つである。放置すると便の粘液性が増し、血液が混じり,血便が出るようになる。
病変の分類
潰瘍性大腸は、炎症が起きている部位によって、次のように病変の分類がされる。
- 全大腸型:大腸全般に広がるもの
- 左側大腸炎型:左側大腸に限るもの
- 直腸炎型:直腸に限るもの
- 限局型
病態
潰瘍性大腸炎では、大腸粘膜や粘膜下層が侵される。
検査・診断
問診によって潰瘍性大腸炎が疑われた場合、
- 抗菌薬の服用歴
- 海外渡航歴
- 放射線照射歴
を必ず確かめて感染性腸炎との鑑別を行い、各種検査をする。
大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査では、全大腸を観察し、病変部位の連続性について確認する。
ただし、巨大結腸症や穿孔の患者では行ってはならない。
また、腹症が持続している患者では、検査前の下剤や浣腸の処置が症状の悪化を招く可能性があり、原則的に行わない。
検査所見
- 偽ポリポーシスが見られる
潰瘍性大腸炎の特徴的な所見としては、偽ポリポーシスが見られることである。
偽ポリポーシスとは、ポリープのように出っぱったものである。潰瘍によって粘膜が傷害されると、傷害されなかった部分は出っぱったように残る。これが偽ポリポーシスである。
注腸X線検査
注腸X線検査は、大腸内視鏡検査を行っても、病変部位の範囲などが特定できない場合に行う。
前処置の注意は大腸内視鏡検査と同じで、腹症が持続している患者では、検査前の下剤や浣腸の処置が症状の悪化を招く可能性があり、原則的に行わない。
臨床的重症度の分類
潰瘍性大腸炎の症状の程度や治療法の選択には、下に示す臨床的重症度判定基準(厚生労働省より)が重要な指標となる。
軽症
潰瘍性大腸炎の軽症は、次の1~6項目全てがあてはまるものである。
- 排便回数:4回以下
- 顕血便:ある、もしくはない
- 発熱:ない
- 頻脈:ない
- 貧血:ない
- 赤沈:正常
中等症
中等症は、重症と軽症の中間である。
重症
重症は、
- 次の項目の1と2があてはまり、
- 3か4のどちらかがあてはまり、
- かつ4項目以上あてはまる
ものである。
- 排便回数:6回以上
- 顕血便:ある
- 発熱:37.5℃以上
- 頻脈:90/分以上
- 貧血:Hb 10 g/dL 以下
- 赤沈:30 mm/h 以上
劇症
重症の中でも特に症状が激しく、重篤なものは「劇症」と呼ばれる。劇症は、次の1~5項目すべてがあてはまるものである。
- 重症基準(上の6項目)を満たしている
- 15回/日以上の血性下痢が続いている
- 38℃以上の持続する高熱がある
- 10,000/mm3以上の白血球増多がある
- 強い腹痛がある
劇症は、発症の経過によって次のように急性劇症型(急性電撃型)と再燃劇症型に分けられる。
- 劇症
- 急性劇症型(急性電撃型)
- 再燃劇症型
治療
潰瘍性大腸炎の治療は、臨床的重症度と病変の状態によって決定される。
多くの患者では、発症後の集中的な治療により症状が良くなる。しかし、ほぼ再発(再燃)を繰り返すため、症状に応じた薬物治療を続ける必要がある。
また、長期の経過過程で大腸癌になることがあるため、定期的に内視鏡検査をすることが大事である。
1.薬物療法
軽症~中等症
- アミノサリチル酸製剤(サラゾスルファピリジン、メサラジン)の投与
- 炎症を抑える
- 再燃予防効果もある
中等症以上
- ステロイド(ブレドニゾロンなど)や
- 生物学的製剤(インフリキシマブ、アダリムマブなど)
- 炎症を強力に抑える
ステロイドは強力な抗炎症作用をもつ。そのため、特に急性期や重篤度が高い症例に使用される。
これらの薬を投与後、劇的な効果が期待できる。しかし、潰瘍性大腸炎は長く付き合っていく(慢性的な)疾患であるため、長期的な使用になることが多い。
そのため、精神障害や感染症といった副作用に注意しなければならない。
ステロイド使用不可の場合
- 次の免疫抑制薬により炎症を抑える
- アザテオプリン
- 6-メルカプトプリン
- シクロスポリン
- タクロリムス など
これらの薬は、薬の血中濃度を測定して確認しつつ治療を進める必要がある。
2.血球成分除去療法
血球成分除去療法は、大腸の炎症に関与する活性化した白血球をフィルターで除去する治療法である。この治療法は、症状や重症度を考えて選択される。
大腸の炎症には白血球が関与していると考えられている。そのため、この方法で活性化した白血球を除去する。
患者の血液を静脈から輸液ポンプで体外へ排出し、電荷を帯びた白血球除去フィルターを通過させ、活性化した白血球を除去する。
3.外科的療法
重症の場合は、手術により大腸を全摘(すべて取り除くこと)する。
大半の潰瘍性大腸炎は薬物療法で治療できる。しかし次のような場合、手術の対象となることがある。
- 大量出血がある
- 中毒性巨大結腸症(大腸が腫れ上がり、毒素が全身に回る)になる
- 穿孔(大腸が破れる)がある
- 癌化またはその疑いがある
- 内科的治療に反応しない重症例
- 副作用のためステロイド薬が使用できない
手術により大腸を全摘出し、小腸で便を貯める袋を作って肛門につなぐ回腸肛門吻合術(ileo anal anastomosis ;IAA)が主流である。
治療薬
サラゾスルファピリジン
サラゾスルファピリジン(SASP)は、スルファピリジン(SP)と5-アミノサリチル酸(5-ASA)のアゾ化合物である。
投与後、一部は小腸上部から吸収され、残りは腸内細菌によってSPと5-ASAに分解される。5-ASAは、大腸にとどまって炎症を抑える。
- サラゾスルファピリジン(SASP)
→ スルファピリジン(SP) + 5-アミノサリチル酸(5-ASA)
メサラジン
メサラジンはサラゾスルファピリジンとは違い、5-アミノサリチル酸(5-ASA)そのものである。
メサラジンはエチルセルロースでコーティングされた徐放性製剤である。小腸から大腸まで効果的に作用するように設計されている。
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