pH分配仮説とは、「薬物の脂質膜透過性は、消化管液のpHでの薬物の非解離形(分子形) の存在割合と脂溶性の程度によって決まる」という理論のことである。

pH分配仮説の前提条件として、

  • 生体膜が完全な脂質膜で構成されている
  • 消化管液のpHが管腔内のすべての部位で 同じ

というのがある。

医薬品は固有のpKaの値をもつ

医薬品の多くは弱酸性または弱塩墓性の物質であり、固有のpKaの値をもち、存在する環境のpHによって非解離形(分子形)と解離形(イオン形)の割合が変化する。

  • pHによって変化:非解離形(分子形)↔︎ 解離形(イオン形)

イオン形は膜透過できず、分子形なら透過できる

pH分配仮説では、分子形薬物は脂質膜を透過できるが、イオン形薬物は膜を透過できない。

また、分子形薬物の脂質膜透過は速やかで、常に平衡状態にあるとされる。

  • 分子形薬物:脂質膜を透過できる(膜透過は速く、常に平衡状態)
  • イオン形薬物:脂質膜を透過できない

Henderson-Hasselbalch式で分子形とイオン形の比を算出できる

薬物の膜透過では、透過部位のpHと薬物の分子形分率(分子形とイオン形の比)を考慮しなければならない。

弱酸性・弱塩基性の薬物における分子形分率は、Henderson-Hasselbalch式で計算することができる。

弱酸性薬物HAの場合

Henderson-Hasselbalch式

$$pH=pKa+\log { \frac { \left[ { A }^{ – } \right] }{ \left[ HA \right] } } ={ pK }_{ a }+\log { \frac { \left[ イオン形 \right] }{ \left[ 分子形 \right] } } $$

  • pKaが大きい薬物ほど (分子形の存在比が大きくなり)、 透過性がよい

弱塩基性薬物Bの場合

$$pH=pKa+\log { \frac { \left[ B \right] }{ \left[ { BH }^{ + } \right] } } ={ pK }_{ a }+\log { \frac { \left[ 分子形 \right] }{ \left[ イオン形 \right] } } $$

  • 共役酸のpKaの小さい薬物ほど (分子形の存在比が大きくなり)、透過性がよい

油によく溶ける薬ほど、膜透過しやすい

透過率は、薬物の油/水分配係数からおよその予測は可能である。

油/水分配係数は、薬物の脂溶性の目安になり、油/水分配係数が大きい薬物ほど脂溶性の高い薬物である。

単純拡散による薬物の吸収において、油/水分配係数が大きい薬物ほど、その吸収性は上昇していく。