NMR(核磁気共鳴法)とは、原子核のもつ磁気スピンのエネルギーを検出する方法である。

測定原理

分子内の個々の原子核は、特定の核スピンの回転周波数をもつ。NMRでは、その回転周波数に一致するエネルギーが、吸収または放出される(共鳴)。

そのため、そのエネルギーの大きさの違いによって原子核の回転周波数の違い、すなわち性質の違いを検出することができる。

用いられる電磁波

  • ラジオ波

NMRでは、電磁波であるラジオ波が用いられる。

静磁場内に置かれた物質の構成原子核は、ラジオ波に共鳴することでスピン状態が変化する。これを利用してスペクトル測定を行う。

シグナルの読み方

シグナルの面積は、測定原子核の数を反映する。
1H-NMRの場合、Hの数が多いほどシグナル面積は大きくなる。

  • シグナル分裂数-1 = 隣の測定原子核の数
    1H-NMRの場合、分裂数から1引いた数は、隣の炭素に結合するHの数を表す。

カップリング

カップリングとは、近接プロトンの影響によってNMRスペクトルのシグナルが分裂することである。

化学シフト:ppm

化学シフト(ppm)は、シグナルが生じる位置のことである。

化学シフトの大原則は、「測定原子核の電子密度()を反映する」ということである。

測定原子核の電子密度が高いほど、高磁場側にシグナルが現れ、
電子密度が低いほど、低磁場側にシグナルが現れる。

  • 電子密度
    • 高 → 高磁場側(ppmが小さい側)
    • 低 → 低磁場側(ppmが大きい側)

ここで、高磁場側というのはppmが小さいほう、低磁場側というのはppmが大きい方である。

  • 特徴的な化学シフト
    • 基準物質 0 ppm
    • アルキル基 1~4 ppm
    • ベンゼン核 7 ppm
    • アルデヒド水素、カルボキシル基水素 10 ppm

高磁場

  • 横軸ppmの数値が小さいほう
  • 電子密度の高い水素原子核(H)に由来するシグナルが現れる

 

  • 高磁場側にシグナルが現れる原子核(電子密度が高い原子核)
    • アルキル基に結合するH・・・1~4 ppmにシグナル

電気陰性度:H > C
→ アルキル基のHは電子密度が高い
→ 高磁場側にシグナル

低磁場

  • 横軸ppmの数値が大きいほう
  • 電子密度の低い原子核の存在を示唆

 

  • 低磁場側にシグナルが現れる原子核(電子密度が低い原子核)
    • ヘテロ原子に結合するH
    • ベンゼン環プロトン・・・7 ppm付近にシグナル

※ヘテロ原子:CやH以外の原子。OやNであることが多い

 

電気陰性度:O > N > H
→ これらヘテロ原子に結合するHは電子密度が低い
→ 低磁場側にシグナル

遮へい効果

プロトン周りの電子密度が高いと、電子が核を外部磁場から大きく遮へいする。このように、核が電子によって遮へいされることを遮へい効果という。

この遮へい効果により、シグナルは高磁場側に現れる。

相対感度

1Hの相対感度を1.000としたときの相対感度を次に示す。

  • 2H・・・0.0096
  • 13C・・・0.0159
  • 14N・・・0.0010
  • 19F・・・0.834
  • 31P・・・0.0664

19Fは1Hほどではないが、感度が高いほうである。

1H核は天然存在比約100%であるため、高感度に測定できる。

13C核は約1%であるため、検出感度は大きく減弱する。

NMRで観測できる原子核、観測できない原子核

NMRで観測できる原子核は、原子番号質量数が同時に偶数をとらない原子核」である。この原子核は0でない核スピン量子数lをもち、NMRにより共鳴現象を検知することができる。

逆に、NMRで観測できない原子核は「原子番号質量数が同時に偶数になる原子核」と言える。原子番号と質量数が共に偶数なら、NMRで測定できない。

NMRで観測できる原子核、観測できない原子核

 

スピン量子数l

測定できない核

0

12C、16O、32S

測定できる核

1/2

1H、13C、15N、19F、31P

1

14N

5/2

17O

3

10B

重水素置換

試料溶液に重水素(D2O)を添加すると、OHやNHなどのHはODやNDとなってシグナルが消失・移動する場合がある。

このことを重水素置換という。

重水素を添加してシグナルが消失・移動した場合、ヘテロ原子に結合するプロトンが存在することがわかる。

例えば、重水素を添加して1H分のシグナルが消失した場合、ヘテロ原子(O, S, N)に結合するプロトンが1つ存在すると推定される。