局所麻酔薬
局所麻酔薬とは、末梢の知覚神経に作用して痛みを感じなくさせる薬物のことである。
局所麻酔薬は急心性インパルスの伝導を可逆的に遮断することで、痛覚を消失させる。
目次 (項目へとびます)
作用機序:Na+チャネル遮断
局所麻酔薬の作用機序の流れは以下のようになる。
- 非イオン型局所麻酔薬が細胞膜通過し、陽イオン型になる
- 陽イオン型局所麻酔薬が電位依存性Na+チャネルに内側から結合
- Na+チャネルを遮断
- 細胞内へのNa+流入阻害
- 痛みの伝導抑制
局所麻酔薬は、知覚神経における電位依存性Na+チャネルの開口を阻害する。
Na+が細胞内に入ってくることで活動電位が発生するが、これが抑制されるため、痛覚が抑制される。
神経細胞が興奮して情報を伝える流れについては、神経細胞の興奮伝達で詳しく説明している。
局所麻酔薬は、非イオン型で細胞膜を通過し、細胞内でイオン型となる。そして神経膜の電位依存性Na+チャネルを遮断する。そのため、局所麻酔薬の作用部位は細胞質側だと言える。
局所麻酔薬の血管拡張作用
局所麻酔薬は痛覚を消失させるだけでなく、血管を拡張する作用も持つものが多い。
血管が拡張すると、注射した部位の血管網から速やかに吸収されることになる。
注射部位からすぐに血液に乗ると、
- 局所の薬物濃度がすぐに低下し、すぐに効果がなくなる
- すぐに全身に吸収されて中毒症状が発現するおそれがある
といったことが起きる。
局所麻酔薬+血管収縮薬
そのため、血管収縮作用をもたない局所麻酔薬には、アドレナリンやフェニレフリンといった血管を収縮させる薬が一緒に用いられる。
血管収縮薬を併用することで、
- 麻酔作用の効力増強
- 作用持続時間が延長
- 全身性副作用(中毒症状)の軽減
といったことが期待される。
コカインやメピバカインには血管収縮薬を併用しなくてもよいが、必要に応じて併用される。
ただし、高血圧症患者や糖尿病患者では、血圧上昇作用、血糖上昇作用を起こすため、血管収縮薬は禁忌である。
感覚の消失順
局所麻酔薬の遮断作用は、
細い繊維 → 太い繊維
の順に現れる。局所麻酔薬は自律神経や運動神経の興奮も遮断できる。
感覚麻痺は以下の順で起こる。
- 痛覚(無髄C繊維)
- 温覚(有髄Aδ繊維):冷感 → 温感
- 触覚・圧覚(有髄Aβ繊維)
局所麻酔薬の適用法
表面麻酔法
表面麻酔法は、言葉通り、粘膜(口腔、結膜、角膜)表面に塗布して麻酔する方法である。
表面に塗っても吸収される薬にする必要があるため、組織浸透性のよい薬物(脂溶性の高い薬物)が用いられる。
眼や創傷部、胃粘膜の鎮痛などで表面麻酔法が用いられる。
- コカイン
- リドカイン
- テトラカイン
- ジブカイン など
浸潤麻酔法
浸潤麻酔法は、手術部位の周囲に皮内・皮下注射し、知覚神経の一番末端の細い線維を麻輝させる方法である。
抜歯・眼科・耳鼻科の小手術に湿潤麻酔法が用いられる。
- プロカイン
- リドカイン
- メピバカイン など
伝達麻酔法
伝達麻酔法は、神経幹周囲に注射して麻酔する方法である。
神経が太いため、湿潤麻酔法より高濃度が必要である。
三叉神経痛、骨折整復などに伝達麻酔法が用いられる。
- リドカイン
- テトラカイン
- メピバカイン など
脊椎麻酔法
脊椎麻酔法は、くも膜下腔に注入する方法である。
下半身の手術に脊椎麻酔法が用いられる。
- リドカイン
- テトラカイン など
硬膜外麻酔法
硬膜外麻酔法は、硬膜外腔に注入して、脊髄神経の麻痺を起こす方法である。
胸部、腰部、仙骨麻酔に硬膜外麻酔法が用いられる。
- リドカイン
- メピバカイン
- プロカイン など
分類
局所麻酔薬は、次の2つに分類される。
- エステル型
- コカイン
- プロカイン
- オキシブプロカイン
- テトラカイン
- アミノ安息香酸エチル など
- アミド型
- リドカイン
- ジブカイン
- メピバカイン
- ブピバカイン など
エステル型
エステル型の局所麻酔薬は血漿コリンエステラーゼにより分解されるため、作用時間が短い。
また、アレルギー反応も起こしやすい。
アミド型
アミド型の局所麻酔薬はエステル型とは違い、コリンエステラーゼによる分解を受けない。
アミド型は肝臓でP450によって代謝される。
アミド型はアレルギー反応を起こしにくい。
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