ソリブジン事件
ソリブジン事件とは、ソリブジンと5-フルオロウラシルを併用することによって、重篤な副作用を生じ、最終的に日本で10数名の患者さんが亡くなられた事件である。
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ソリブジン
ソリブジンは単純ヘルペス、水痘・帯状疱疹、EBウイルスなどのウイルス感染症に用いられる抗ウイルス薬である。
現在は、販売が中止されている。
作用機序:DNAポリメラーゼ阻害
ソリブジンはヘルペスウイルスなどのチミジンキナーゼでリン酸化され、三リン酸化体となり、DNAポリメラーゼ阻害によるチェーンターミネータとして働くとされている。
フルオロウラシル
フルオロウラシルは代謝拮抗薬に分類される薬物で、抗がん剤として消化器癌、乳癌、子宮頸癌などに現在も非常によく使用されている医薬品の一つである。
5位の水素がフッ素に置換されているので、正式名称は5-フルオロウラシルである。
作用機序
体内に入ると活性代謝物である5-フルオロデオキシウリジル酸(5-FdUMP)に変化し、
これが癌細胞のチミジル酸合成酵素を阻害することでDNAの生合成を阻害する。
また、別の代謝物であるフルオロウリジン三リン酸(5-FUTP)がRNAに取り込まれることによってRNAの生合成も阻害する。
副作用
フルオロウラシルの副作用には、激しい下痢、骨髄障害、血液障害などがある。
- 激しい下痢
- 骨髄障害
- 血液障害
ソリブジン事件
ソリブジン事件は、1993年に起こった重篤な薬害事件である。
ソリブジンは本年の9月3日に販売が開始された。しかし、2週間足らずで副作用によって死亡してしまう患者さんが出たと報告された。このため、販売会社の日本商事へは厚生省から注意文章を出すように命じられた。
ところが、日本商事はこれを無視し、販売を続けた。結果的に副作用によってさらに10数名もの患者さんが亡くなられてしまった。
原因
出典: Chemical Book「5-ブロモビニルウラシル」
ソリブジンは代謝され、5-ブロモビニルウラシルになる。
この5-ブロモビニルウラシルは5-FUの解毒代謝酵素であるジヒドロチミン脱水素酵素を阻害することで、血中の、5-FUの濃度が上昇してしまい、副作用が大きく発現してしまったということである。
問題点
ソリブジン事件最大の問題点としては、利益を追求してしまったが故に患者の生命を無視した点である。
ソリブジンは臨床段階で、すでに3名の患者が5-FUとの併用で亡くなっていた。しかし、ソリブジン自体は効果が非常に良いことも分かっていた。
そのため、添付文書には非常に小さく注意を促すのみで、販売へと踏み切られてしまった。
また、そのころは癌患者さんへ癌と公表していないことが多かった。そのため、いくら注意を促しても完全に防ぐことはできなかったかもしれない。
とはいえ、この社会情勢をしっかりと理解したうえで、十分な注意勧告を怠っていなければ、ソリブジンという有用な薬は今も使われ続けていたかもしれない。
ソリブジン事件を踏まえたうえでのまとめ
ソリブジン事件をふまえ大切なことは医薬品の開発は、企業側が正しい情報を社会に提供することが必須であり、患者さんのための創薬を第一に考え行っていく必要があるということである。
企業側にとっても患者側にとってもソリブジンという薬を失ったことは痛手である。これから開発されていくたくさんの医薬品のうち、同じような結末となる医薬品がないよう努力していくべきだと考える。
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